ここにいよう、雨の朝は
雨の朝
その言葉の次は、どこか物語が続いていく。
そこにいるひとを想像する。
雨を見ながら本を読むひと。
雨の音とジャズが入り混じる音を聞く人。
雨の窓から差し込む光を何をするでもなく見る人。
何かこれから始まるような、そのままそこで待つような
そんな気持ち。
ここにいよう、と思う場所。
カフェ『雨の朝』
通っている東北大学から近いこともあり
開店してからしばらくして、やっと訪れる機会を得る。
せっかくだから雨の日に。
そう思って、静かな住宅街にのんびりと構える雨の朝の扉を開ける。
秋雨で少し冷えたからだを、ストーブが出迎える。
「こんにちは、好きなとこに座っていいよ」
メガネとヒゲが印象的なマスターが柔らかい口調で話しかけてくる。
荷物を席に置いていると
カウンターから声がこっちに向かってくる。
「注文こっちだからねー」
「これどんな飲み物ですか?」
「ああ、それはね……」
メニューの質問をしても、マスターは気さくに答えてくれる。
嫌な感じがしない。
「じゃあこれで」
「ありがとー。400円ねー」
そうして注文をし終わって席に戻ろうとすると
「25日なんかある?」
突然そう言われて、ぼくが不思議そうな顔をしていると
「こういうイベントあるんだけどさ、来てみてよ」と。
「これねーカフェが大好きな子がウチに来て、
最初はバイトしたいって言ってたんだけど
ほら、ウチまだ始めたばっかりでバイト雇う余裕がないから断ったのね。
けど、なんかすごい熱があったから、
じゃあうちでラテアートとか練習して
この日だけはお店で一日中ラテアート注文入ったらつくる日にしたらいいじゃん
っていう流れでこういうイベントになったんだよねー」
なんかユルいなあ。いいなあ。
話しかけられると、レジ脇に置いてあった惣菜パンも気になる。
「これは、何なんすか?」と聞くと
「近くのおばちゃんが
『ここで売ってくんない?』
って言ってきて協力して売ってんだよねー」だって。
じゃあそれも、いただきます、と言う。
ついでだからラテアートお願いします、と言うと
「うまく描けるか分かんないけど、やってみるねー」と、ユルい。
待っている間に惣菜パンを食べる。
めちゃくちゃ美味しいわけじゃない。けど、美味しい。
場所のせいもあって、安心感がお腹いっぱいにたまっていく。
レジ横の席に腰掛ける。
マスターは、と向こう側でコーヒーを注ぐマスターに向かって話しかける。
「どうしてここを開こうと思ったんですか?」
「コーヒーが好きだったからかな」
「カフェという空間を作りたいって人もいますよね、そうじゃなくて?」
「うーん、どっちかというと、
コーヒーが好きだから、コーヒーを楽しんでほしいってのはあるかなー
だから、何かワイワイだべって騒ぐ場所っていう感じにはしたくないってのはあるかな。
だからおれも席まで注文取りに行ったりしないしねー」
なんだかすごい主張が強いこと言ってるはずなのに、そのトーンが柔らかい。
そうは言いつつも、マスターは話しやすい。
そうやっていつの間にやら、話し込んでしまっている自分もいる。
人。
そこは静かだけど、人を感じる。
カフェ特有の、そわそわした感じがしない。
ぼくはそういう場所が、好きだ。
コーヒー一杯のためにそわそわした気持ちを我慢するのではなく
コーヒー一杯を理由にして、その場所にちょこんといたくなる、場所。
「どうして、『雨の朝』なんですか?」
ラテを運んできたマスターにそれとなく聞いてみると
「それは言わないことにしてるんだよね」
そんな答えが返ってくる。
それでも、いいや、と思う。
雨の朝
静かだけど、人を感じる。
ただの無愛想で静かな店とは違う。
その人その人の、静けさがそこには、ある。
読みかけの本を開いても良い。
窓の外を見ていても良い。
何もしなくても、良い。
「もっと女性も連れてきてよ」
と店を出るときマスターに言われたけれども
いや、難しいなあ。
雨の朝は何となく一人だけの贅沢にしたい感じがある。
店を出ると、背伸びをした気分になっている。
参考情報
カフェ『雨の朝』ツイッター
地図などの店舗情報はこちら
雨の朝 [国見(宮城県)/カフェ] - Yahoo!ロコ
関連する記事
傘がない女性と傘がある女性 - 人生かっぽ — 佐藤大地のブログ
仙台が舞台の人気マンガ『ハイキュー!!』イベントに行ってきた 『ハイキュー!!ウィークin仙台』 - 人生かっぽ — 佐藤大地のブログ
相手と分かりあうなんてできない - 人生かっぽ — 佐藤大地のブログ
書いた人をフォロー
119
Facebookフォローで情報受け取る方はこちら↓