運命の出会いなんて、ねえんだよバーカ
本気で好きだから付き合い始めたのか?
という質問に答えるなら、それは違う、というしかない。
「運命の人」
そこまで言うと大それたことかもしれないけど
出会うなら、そういう人と、と彼が思っていたのも確か。
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「まだ彼女いないの?」
そんな声がそろそろ、彼の周りに強くなってきていた。
彼女いない歴=年齢
男子の場合は、これに「=童貞歴」というものが加わる。
童貞であること、これは男子にとって恥ずかしいことになると思っていた。
20歳も超えたのに、自分にいまだ彼女がいないことは
どうしようもない不名誉に感じられることにもなっていて。
自分はかっこいい人間なんだ。
「カッコイイから絶対可愛い彼女いるでしょ」
「モテるでしょ」
周りの人間は口々に自分の容姿を褒めてくれたから
表立っては言わなかったけれども、彼は容姿に自信があった。
そういう周りの声から、自分に彼女ができるんだったら、
周りがうらやむようなとびっきり可愛い彼女と思っていた。
けど、そういう子たちにはいつも思いが届かなかった。
Afternoon (Latte Art) / onigiri-kun
正直焦っていたから、というのが正直な理由だ。
イベントも重なってくる12月を目の前にして
彼は告白をされて、付き合うことにした。
サークルでそこそこ仲良かった、それほど可愛くはない、彼女と。
好きではなかった。
彼女は「ずっと好きでした」と言った。
けど彼は「マシ」くらいの気持ちだった。
さすがにもう彼女いないのはマズい。だから。
可愛いね、とお世辞なら周りに言ってもらえる。
彼女の容姿はそれくらいの容姿だと彼は思っていた。
だから、周りにすすんで紹介するのは気が引けた。
「絶対可愛い彼女いるでしょ」
そういう周りの声がいつも彼にはプレッシャーに感じていた。
来年の春くらいには別れよう。
実のところそう思っていたのだけど
彼は別れられなかった。
尽くしてくれる彼女への情というのもあった。
けど、付き合えば付き合うほどに今まで見えてこなかった彼女の良さが見えてきた。
積み重ねてきた彼女との日々が、4ヶ月なんていう月日以上の価値になっていた。
ああ、好きなんだな。
気づいた。
変な話ずっと認めたくなかった気持ちに。
「え、◯◯の彼女、あのコなの!?」
そんなことを友人たちに言われたのは、
最初予定していた春をとうに過ぎて、夏に差し掛かっていた日だった。
友人たちは、しっかり言葉にしなかったけど
その様子には、「意外」というよりも「あ然」という言葉が似合っていた。
だから、察して、彼は言った。
「いや、本当は次の人見つけるまでのつなぎだから」
彼女のことが好きだと気付いてから、しばらく忘れていた気持ちが、湧き上がってきていた。
その場を離れた自分を、罪悪感がひっついてきた。
最低だ。
しばらく歩いてから、彼は泣いた。
最低だ。
容姿的に不釣り合いだってことは、彼が何かを言ったわけじゃなくても彼女も実感していた。
いや、あたしなんか全然可愛くないから。
そう言っている彼女の顔がちょっとだけ悲しそうだということも知っていたし
それに対して自分がうまい言葉をかけられていないのも知っていた。
最低だ。
「ちょっと距離取ろう」
彼は彼女にメールする。
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唯一なんでも相談できる先輩にその気持ちを、軽蔑されるのを覚悟で相談した。
「お前、自分には
『運命の出会い』とか『理想の人』
みたいなことがあるとでも思ってんの?
そんなもんねえんだよ、バーカ」
彼の話をしばらく聞いた後に先輩がそう言う。
「運命って、後から、
ああ、あれが運命だった、って気づくじゃん。
運命の出会いなんて言ったり信じてるやつはバカじゃん
お前、超能力者かなんかなの?」
先輩が笑って言ったので、
彼には自分の悩みがほんの小さなことに感じられた。
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運命の人。
自分にぴったりの人。
そんな人は、出会ってすぐに分かるはずがない。
嫌なとこも、ちょっとな、と思うこともある。
それは出会ってすぐかもしれないし、しばらくしてかもしれない。
けどそれは、無いのが良いことなんかじゃない。
受け入れた先に、二人にしかたどり着けない運命みたいなものになるんだろう。
運命の出会いは、自分で作ればいい。
運命の出会いに、自分ですればいい。
本気で好きだから付き合い始めたのか?
という質問に答えるなら、それは違う、と彼は言うしかない。
けど
彼女との出会いは運命だと思うか?
と訊かれたなら、その通り、と彼は言うつもりでいる。
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