タバコを吸う女性と、できる一枚の壁
タバコを吸う女性と、壁を一枚作ってしまう。
苦手なわけじゃない。壁一枚、だ。
久しぶりにタバコを吸った。
相変わらず味だとかどうだとかいうことは、知らない。
「ねえ、タバコやめない?」
かつての彼女に言った。
車に乗ったときに、たばこのにおいに気づいて
「タバコ吸ってんの?」
そう聞いて
「吸ってるよ」
そう言われてからずっと考えていたことだった。
彼女はしばらく黙って
「いつか言われると思っていた」
と言ってから
「考えておくね」
と付け加えたけど、愛想のために言ったことは気づいていた。
それからしばらくして彼女とは別れた。
タバコやめない?と言ってからも
会っていたし、笑い合っていたし
それが直接の原因だとは思えないけど
どうしてだろう。
タバコやめない?というぼくへの答えのような気がした。
考えておくね、そして、タバコを取った、
なんてバカなことはないと思うけど。
別にタバコに関して嫌な気持ちはない。
両親はもともとヘビースモーカーだし
ぼくは幼い時に両親の吐くタバコの煙と
自分からたわむれるくらいだったから。
けど、彼女には、なんか嫌だった。
自分が吸えばなんか分かるのかな。
彼女のことが忘れられなかったわけじゃないけど
タバコが嫌だなという印象だけはなぜか頭にこびりついていて
自分が吸えば何か分かるかなと思って吸うようになった。
そしてついにぼくも煙たがられるときが来て。
それまで楽しそうに話していた女性が
ぼくが外でたばこを吸っている姿を見て
明らかに口角を片方だけ上げて笑うようになって。
ああ、あのときの、彼女も、きっと同じ気持ちだったんだろうな。
やっと、そこで、分かった。
ただ、いつまでたっても
女性がタバコを吸う姿には壁をひとつへだててしまう自分がいて。
社会的に「NG」な女性とも関係があった。
水商売をしている人と付き合ったり
AV女優のはしくれのような人とも付き合う機会があったけど
それほど別れる大きな理由にはならなかった。
けど、やっぱりタバコの女性は、壁一枚、できる。
なんとかしたいのに、ならない。
「たった一点どうしても気にくわない点があるってのは
一緒に居続けようとしてもどうしようもない壁になるよ」
そんなことをかつて言われたこともあって。
まあそういうものか、と思ったりもした。
けど、これから本当に大切な人を目の前にして
他のどんなことでも受け入れるつもりだとして
それなのに
タバコ一本という、500円ぽっちのものが壁になるとしたなら、
こんなに悲しいことはない、と思う。
最近タバコを吸うんだけど
いくら煙を吸っても吐いても見つめても
やっぱり、何も分からない。
なぜだろう。
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