「ただいま」のシュークリーム
隣の席に愛情が座っている。
ふと電車で横を見たら。
それを握りしめている薬指が、
指輪をしている。
「ただいま」と
このシュークリームが
家にたどり着いたときを想像してみる。
喜びに溢れた空気を想像してみる。
微笑みは、おさえきれなくなる。
そう言えば
ぼくの父は、と思い起こされる。
病気をしてからというもの、出張をすると
お菓子やら地元の品を買って来るようになって。
「理由なんて何でもいいの、美味しいものがあるなら」
その理由が照れ隠しなのか本気なのかは分からないけど
母はそう言ってぼくに話してくれたことがある。
父親が病気にかかった当初は病状もひどく
家族の重い病気という経験を知らないぼくは
父が食べられないおはぎを食べて、泣いた。
父自身の懸命な健康づくりと
母の料理による支えのおかげで
病状はかなり回復して
今では冗談で病気の話を出せるまでになった。
それからだったなあ。
父が家族に美味しいものを買って来るようになった。
小さい頃から週末しか帰ってこない単身赴任だった父。
ぼくが大きくなってからというものの
何があったわけではないけれど
これと言って話もしなくなった父。
だから正直、
美味しいものと一緒に帰ってきたときが
物心ついたぼくが初めて父親を感じる瞬間で。
父が何かを買ってくると
それを抱えて帰ってくる姿を想像していて
何よりもその道のりに愛情を感じていて。
父は、どんな顔をして、それを運んできたのだろう。
きっと、父らしく、ちょっとニヤニヤしている。
そんなことを思って、食べた。
今日、この夜に
「ただいま」と言うシュークリームはどれくらいだろう。
「おかえり」とシュークリームを迎える人はどれくらいだろう。
微笑みは、やっぱり抑えきれないのです。
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