人生かっぽ

人生かっぽ —佐藤大地ブログ

哲学、言葉、人生観、仕事、恋愛、など人生をかっぽするような物語をつむぎます。宮城県 仙台市を主な活動拠点とする佐藤大地のブログです。2014年からEvernote公式アンバサダー。大学院では政治学を研究していました。

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【ネタバレ注意報】もしも人間関係でスレてきた27歳がエヴァンゲリオンをがっつり読んだら【漫画版エヴァは面白い 感想】

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はい、新春一発目にやったことは、


エヴァンゲリオン漫画版のレポートまとめでした。@ミスド


こちらの2015年気に入った本の中にも入れたんだけど

www.jinseikappo.com


面白かった。



さて、今回はエヴァを読んだぼく(いろいろな人間関係を経て若干スレた27歳フリーター)が、エヴァをどんなふうに読んだのかを書いてみます。
できるだけ読んでない人にも伝わるように。


あ、ひとこと断っておくけれども
ぼくは漫画版だけを読んでまとめております。


映画やアニメシリーズは見てませんので、全部見ているエヴァガチ勢の方々、
「おまえエヴァの何たるかをぜんっぜん分かってねえ!」とかやめてください。ATフィールドはります。


エヴァをまだ知らない頃、
ガチファンの友人に「エヴァってガンダムみたいなやつでしょー?」って言ったら
「あ?人造人間だから。…あ?」と死んだ鯛のような目でみられた恐怖心をいまだ克服できていません。
エヴァガチファンに対しての恐怖心を持っております。


ということで、あえて漫画だけ読んだまとめをします、と宣言することでじぶんを防御しときます ATフィールド。


あ、あと、まだエヴァを漫画で読んでいない方々は、引用の関係上、漫画の何シーンかを引用しますので、【ネタバレが嫌な方は読まないように】読んでから文句言わないように ATフィールド。


なお、引用は主従の関係を配慮した範囲に収めたつもりですが、権利側の申請により問題があるようでしたら削除等の対応をいたします。

さて、いろんな読み方ができて語りたいことは山々ですが

ぼくはこの物語を、
「母性から離れ、新しい母性を探す勇気をもつ旅」
と読んだわけであります。

どうやらエヴァの漫画は聞くところのよると、アニメ版や映画版よりも「救い」があるものがたりだそうですよ。
なんでかって、シンジがきちんと精神的に成長するからだってさ。


ストーリーをかんたんに説明すると。

2000年にセカンドインパクトが起こり地球がてんやわんやになって、
2015年に突如、使徒というでっかいやつらが地球を攻めてくるという話です。
で、チルドレンという中学生ほどの少年少女たちが、巨大人造人間エヴァンゲリオンに乗り込み使徒と戦って地球を守るという話。


その話をすると
「でっかいやつがでっかいやつと戦って地球守るよくあるやーつでしょ?」
となりますが、そういうのは気をつけたほうがいいですよ、殺されますよ。

何が違うかって、ストーリーの焦点が当てられているのが
「使徒と戦う中で、エヴァに乗るチルドレンたちの心の葛藤」
というところ。



チルドレン(少年少女)たちの葛藤を通して身にしみること

ここからは、ひとりひとりのチルドレン(4人目をのぞく)がどんな心の葛藤を持っているか。
そしてそんなチルドレンに囲まれて、シンジがどのような葛藤をへて、どんな成長をするか見ていく。


碇シンジ


まずは主人公 碇シンジ

最愛の母を幼い頃に失い、父は特務機関ネルフの総司令官、つまりエヴァ関係のことをすべて指揮する立場。で、ほとんど息子と交流がない。なんてオヤジだ。


シンジを見ていると


誰かを受け入れたくない。


誰かのためにエネルギーを使いたくない。

最初のころのシンジにはこのような匂いがプンプンします。


このシーンはそれが特徴的に出ているわけです。
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何かに対して必死になることが

「ダメならダメでいいや。だってしょうがなくない、それ?」
「べつにどうせダメなんだし」
「そんなの何が得するの?」

みたいなのありませんでした?


合唱コンクールとかの練習でさ
「もっとちゃんと大きい声で歌おうよ!」
とか言われて、
「は?なんで?」とか言っちゃう感じ。

あったわーあった。


あと、これです。

エヴァに乗ることの使命感が感じられないシンジに対して、司令官のミサトさんが怒るシーン。

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言ったでしょ。僕は最初から乗りたくて乗ってるワケじゃないって。

だってパイロットはぼくしかいないんでしょ。
ぼくが乗らなきゃみんな困るんじゃないですか?

みんながやれって言うから僕は ーー


ほら、この受け身な感じ。

「やれって言うならやるけど? 別にじぶんがやりたくてやってるわけじゃないけど?」

みたいな。
「あなたが必要なの!」っていう承認欲求のかたまりみたいなものであり、「まあダメならダメだよね」って最初からセーフティーネット張って、何かを失うダメージを減らす感じ。


おれ、今日のテスト、そんなに一生懸命やってないから。まあ、それなりっしょ。


っていうやつー。わたしー。





それでもですね。
すこーしずつすこーしずつ、このシンジ君も何かを守ることに一生懸命に、そして必死になっていきます。


そういう意味で大きかったのはこのシーン。


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エヴァが戦う姿を見たいと思って外に出ていたシンジの同級生たちが戦いに巻き込まれそうになり、シンジは安全のために彼らをエントリープラグ(コックピット部分)へと乗せるシーン。

そこの2人 来いっ!!
早く乗るんだ!


「そんなに必死になって何になるの?」
と冷め、人との交流を真剣にしてこなかったシンジが、はじめて必死な顔つきで誰かを守ろうとしたわけです。




こうやってシンジも少しずつ少しずつ
誰かを守るために、必死になっていく。




綾波レイ





シンジの心の変化にデカい変化を与えたのは、ファーストチルドレンである綾波レイの存在ですねー。


こう書くとすごく安易になっちゃうけどシンジにとって「初恋の人」であり「最愛の人」。
そして裏を返せば「失うことが最も怖い人」


綾波レイは、じつは「つくられた人間」なんです。
いわば、エヴァに乗るためにつくられ、そして人類補完計画という世界の秩序を脅かす計画のために、シンジの父親である碇ゲンドウがつくった人間。

人の心をあまり持っていない彼女は、他人との距離を必要以上に縮めない。まるで能面。

いたわこういう子。図書館の隅っこでずっと本読んでる子。


その綾波と、この世界に生きることの価値を探すシンジ、ふたりのこのシーンは、ものっすごく大きいシーン。

じぶんのためにタテになり命が危うくなった綾波を、シンジが助けたときですね。

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何がそんなに悲しいの

バカ… 違うよ…
綾波が生きてたから…うれしくて泣いてんじゃないか

…うれしくて?
うれしい時も涙が出るのね

ごめんなさい
わたしはこんな時 どんな顔したらいいのかわからない

ほんとはうれしいはずなのにね


だれかが生きていて涙を流す。

こういう経験って、27年生きててそれほどない。

誰かが死んでしまって涙を流すことがどうしても多くなってきてしまった。

泣かれたことあります? 生きててよかったって。
ただいまーって家に帰ったら「生きててよかったああああ」って泣かれて出迎えられた経験あります?

生きてるだけで涙って。すごい。


生きてるだけで存在価値があるということを、たとえば「臨床哲学」の分野ではものすごく大事にしてるワケですよ。
あなたは何かの役にたつから生きていてね。
じゃなくて
あなたは生きてるだけで代替不可能な存在価値がある
っていう感覚。


そして、エヴァに乗るためだけ、人類補完計画という大プロジェクトに役にたつから、つまり「何かの役にたつから生きていてほしい」と願われる綾波レイにとって、このシンジの「生きているだけで嬉しくて涙が出る」が嬉しくて、はじめて笑う。
そんなふうに思うシーンです。




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泣いたわ。


やっぱり、生きているといろんな人間関係が増えてきて、そしてやることも増えてきて、その中での関係も増えるから、「あなたにはこれをしてほしい」って期待がたくさん出てくるワケですよね。

おじいちゃんおばあちゃんをお年玉だけの存在としてしか見なくなってしまうという悪徳業者みたいな時代も訪れますよね。

彼女のことを性的欲求を満たすためだけの存在として見るときもありますよね。


でも、そうじゃないんです。
生きてるだけで、ザッツオーライなんです。人間って。




今 僕達にはエヴァに乗ること以外何もないかもしれないけど…

でも

生きてさえいれば いつか必ず
生きててよかったって思う時がきとあるよ

それはずっと先のことかもしれないけど
でもそれまでは
生きて行こう


泣いたわ。


だってさあ。
シンジちょっと前まで
「なんでそんな一生懸命に生きてるの? 何をそんなに必死になってんの? 何のトクがあるの? それ分かんないんだもん、死んでも良くない?」
とか言ってたのに、
「よく分からないけど、生きてさえいればきっと良いことあるよ」
って言うんですよ。


ちょっと前までぼくなんか
「ああー人生ゴールなんてないんだしいつ死んでもいいなあ」
とか言ってたんですよ。ほんっとうにごめんだわ。


シンジは、綾波レイという大切にしたい人をこの世界に見つけるんです。
それまで大切にしたい人なんてひとりも見つからなかったこの世界に、生きる価値を見つけた、彼女のいる世界なら、生きていればきっと良いことが起こる、と思うワケです。


「今までいつ死んだっていいやと思っていたけどさ、子どもができてね、じぶんの腕をぎゅっとつかんでるのを見ると生きていたいって思うんだよね」
と言っていた知人のことばを思い出します。

どいつもこいつも、イケメンですぜ、ほんと。




惣流・アスカ・ラングレー


 惣流・アスカ・ラングレーを見てても、じぶんの中にある一面が見えてくる。

ちなみに、ぼくがエヴァを全然知らないとき、
惣流とアスカとラングレーはちがう人間だと思っていたよ。


ええと。

さっき「生きてるだけでザッツオーライの存在って大事」みたいな話をしたんですけど、
アスカもそれとは真逆の立場に置かれ続けた人間なんです。

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アスカは精子バンクを使って生まれた子ども。

母親が愛した男性との間には子どもは生まれず、代わりとして最高峰の精子を使ってできた子ども。

そのおかげか、14歳にして大学を卒業する超秀才。エヴァの操作もバツグンにうまい。


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しかし、その優秀さとは裏腹に、アスカの育ちにはこういう深い闇が。


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彼女は夫との子供が欲しかったが、彼女の子宮ではそれは叶わなかった

夫はそのうち他に女を作り ほどなく離婚

あげくにその浮気相手と子供を作った上、再婚してしまった

あの人形が ママの子ども…

じゃあ あたしは

ママ あたしは誰なの?

ママ こっちを向いて

お願いだから ママをやめないで


彼女は何かの穴埋めのために生まれてきたような過去があって。
けれど、心の闇の中には「必要とされてきたのに必要とされなかった」という葛藤がある。


だから、その反動で誰かに必要とされるために、誰よりも優秀になって、優等生でいようと気張るんですね。

トラウマを抱えながらも他人に対してちょっとずつ心を許していくアスカですが

それでもやっぱりアスカはシンジなどへの劣等意識など気持ちのブレもあって、どこかで心を閉ざし始めるワケですね。
「だれよりも優秀なのがじぶん」っていうアイデンティティがぐらんぐらんに揺れちゃう。


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エヴァは人形じゃないよ ちゃんと心がある
それにシンクロできないって事は君が心を閉ざしているってことさ

エヴァに乗るには、操縦だけじゃダメで、きちんと心の部分もシンクロする必要があるんけども、アスカはエヴァをずっと道具って考えるワケです。

これはきっと、じぶんもずっと道具として扱われてきたから。

よくあるじゃないですか、じぶんが扱われたように他人も扱ってしまうみたいなところ。

じぶんがイヤがっていた親のあり方を、気づけば同じようにして他人にやってしまっている。

人形のように扱われた人間が、他人を人形のように扱ってしまう。

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なんで兵器に心なんているのよ
ジャマなだけなのに

あんたは私の人形なんだから黙って私の言う通りに動けばいいのよ

とにかく私の命令に逆らわなきゃいいのよ

アスカを見ていると、親から道具のように扱われたじぶん、尊敬する人から道具のように扱われたじぶんみたいなものを思い返すワケです。

いや、それほどひどい扱いを親にされた覚えなんてぼくはないのだけれど。
だれしもが心のどっかにはちょっとあるんじゃないかなと。


親も周りも一生懸命なんだけど
そのうち、親の目標なのか、じぶんの目標なのかわからなくなって、
誰かのためにじぶんが存在しているような気がしてくる。
そういう感じ。


で、それを他人にも求めてしまう。
「必ずこれを私に見返りとして返して!」「がんばって!」って。


そんな「誰かの役に立つことが私の意義」「誰かの役に立たなければ私じゃない」みたいな葛藤をする姿を、アスカを見るとじんじんと伝わってくるのです。



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渚カヲル

誰かに距離を縮めすぎてしまう人ってのはいるものだ。

フィフスチルドレンとして登場する渚カヲルはそういう人。
人間の肉体を持つけれども、じつは使徒である彼(それを他の人たちは知らない)、人間の気持ちとか心の距離感とかがいまいち分からない。

だから、近づきすぎる。

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なんで?

君 一定の距離以内に近づくのを妙にイヤがるな

そのくせ自分からはつかみかかって来たりするし
へんなの

へ…へんじゃないよ

普通の事だよ
好きでもない人間に必要以上に近寄られるのは誰だって気持ちのいいもんじゃない

好きじゃない?

ああ

悪いけど僕は君の事好きになれそうにないよ

そうやって異常に距離が近い人にたいしてシンジは距離感を取る。

生きていると、こうやって異常に近づきすぎる人ってのはいる。

合コン中の可愛い子のボディタッチならいいのだけれど
それ以外で気持ちの距離を異常に近づけてきて「ちょっとなんでそんな近いの?もうちょっと離れてくれないかな?」「なんでそんなプライベートのこと聞いてくんの?なんでおぬしに言わないといけないの?」みたいなことが多々ある。
一度遊んだだけで彼女だと勘違いするとか。あ、これまた違う話か。


しかし一方でカヲルは「興味」はあるけれども「愛情」や「愛着」というものからは程遠い。


それを示すのが、捨て猫をシンジが見つけたときの、カヲルの登場シーン。
忘れられない。


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だって君ついて来られて困ってたんだろ?

だからって
殺すことないだろ!

だってこのネコ
ほっといてもどうせ死んだよ

親もいないし食べ物もないし
こんなトコ君と僕以外に誰も来るはずもないし
飢えて苦しんで徐々に死ぬんだよ

だから今殺してやったほうがいいんだよ


エヴァにまだ乗る前や乗り始めのころのシンジも、たしかに他人と距離をとったり拒絶したりしていたけれども、カヲルがシンジとちがうのは「排除」まですること。そっちのほうがその人のためだと思っていること。
希望が見えそうにないなら、「消えた方がいい」を通り越して「消した方がいい」。


それでも、カヲルはある使徒との戦いの際に、綾波の「人間らしい心」が少し入る。
その心っていうのが、シンジを大切に思ったり失いたくないと思ったりじぶんのものにしたいという心。

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そして始まるボーイズラブ。

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なぜだろう。この2人のやりとりが一番キュンとしてしまうのだよじぶん。
なぜだろう。あたらしい世界への扉が開けてしまったのだろうか。



まあけどこれ、ボーイズラブ的な話だけでおさめることじゃないと思うんっすよこれ。


異性として意識していない存在が、急に手放したくなかったり拒否されたくない相手に思えること。


そもそもどこか人間らしい感覚が足りずに異常に距離を縮めていたカヲルが、綾波レイの人間らしい感情が入ることで「他人に拒絶されたくない」という気持ちに変わる瞬間が見える。

相手に近づくのは単なる好奇心でしかなかったのに、それが嫉妬心みたいなものに気づいた瞬間、「愛情」みたいなものに変わって途端に相手から拒否されたくなくなる。

その気持ちはたとえばこういう経験に似ている。
こいつ面白いよなあって思っていた人に対して、ふとした瞬間に「いなくなるのが困る」とか「悲しい」とか感じる事件があったとして、そこから一気にじぶんの気持ちに気づく。
それまで単なる友人だと思っていた人を異性として意識しだしたり、別になんとも感じていない人がじぶんにはものっすごくかけがいのない存在だったのだと気づいたり。


気づいたちゃったこの気持ち、もう止められない。

みたいな。
急に安くさいなこの表現。


しかしそれでも、最後はカヲルを使徒として消さなければいけなくなったシンジ。


カヲルは、シンジの手によって消されることを望みます。


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そう 武器は使うなよ

君は僕をしめ殺した感覚をその手に残すんだ

そうしたら 君は僕のことをイヤでも忘れられないだろう?

今まで君が失った人たちと同じように

たぶんね

きっとそうだ


泣くわ


誰かがじぶんたちの守りたいラインを飛び越えてこようとしたとき、ぼくらはときにその人に「NO」を突きつけないといけないときもある。

「ごめんなさい。あなたじゃないの」と。
「ごめんなさい。無理です」

だれかを断り、拒絶に近いことをする。
それは誰しも一度は通ることだと思う。


そのときに、嫌われるようにして、じぶんの手を汚さずに、じぶんに罪悪感を残さずに済まそうとしてしまうときがある。

でもね、と。
カヲルはシンジに人生の悲しさと強さみたいなものをそこで教える。

「きちんと君自身の手で、しっかりと、相手を拒否するんだ。大切なものを守るために。大切なものを手に入れるために」



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失うことは、得ること。
なくすことは、前に進むこと。


その強さが伝わってくる。



で、さ。

カヲルの最後の顔見た?見た?
最後笑うんですよ。じぶんが拒否されるのに笑うんですよ。
これ綾波レイにシンジが「生きてて嬉しい」って泣いた時に笑った顔と同じなんですけど。


ふった彼女に「幸せになってね」って微笑まれた時のこと思い出してウファアアってなった。








しがみつく大人たち


チルドレンの少年少女が未来に希望を見出せない姿と対照的なのは、
過去にしがみついて未来に踏み出せない大人たち





加地リョウジ

弟と仲間の命を犠牲にした過去にしがみつく。

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弟と仲間の命を犠牲にして俺は生き残ったんだよ


過去に、じぶんが助かりたいがために弟とその仲間を売り渡すようなことをした加地。

その過去がトラウマで、じぶんが幸せになったり希望を見出すことができない。
過去に恋人だった葛城ミサトともそれで別れている。

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過去にとらわれすぎて未来はこうなるはずがないんだ、こうなってはいけないんだと思いがちなときってある。
「どうせ」
そういうことばでなんだかいろんなことを片付けたりする。


けどさあ。
加地さん最初は見ていてカッコイイなあって思ってたけど、2回目読んだとき、ものっすごいイライラした。


なんだよ運命って。勝手に決めんなよ運命とか。そんなもん未来が決めることだろうがよ。

じぶんの人生を達観して一段高いところから見てんじゃねえよ。


すいません。アツくなりすぎました。

けどさ、
たとえ変えられない過去があったとして、それがどうしようもない悲しみを生んでいても
死ぬまでは最後まで幸せになろうと生き続けてみたらいいんだと思うよ。もがいたらいいんよ。


運命だ
っていう人をかっこいいと思うときもあるけどさ。
それって結局じぶんをかわいいかわいいしているだけだともここまで生きてきて思います。


泥臭く、幸せを願ったらいい。




碇ゲンドウ

シンジの父親であるゲンドウも、失った妻であるユイのことを忘れられずにいた。

そして息子を愛せずにいた。

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おまえの母親は私の救いであり支えであり希望だった
愛する術も愛される術も知らず 深く暗い血を這うような私の人生に 唯一神が与えた光がユイだった

だが与えられた光は一瞬にして奪われた

私は神を呪いそして問うた
奪うのならなぜ与えたのかと


そしてそのユイへの愛情が、人類補完計画というユイを取り戻そうとする計画へと突き動かしていく。


じぶんの身に起きた不幸を、世界のせいにして、世界を憎み、世界に復讐しようとする。
それがゲンドウ。



彼女だけがじぶんを幸せにしてくれる。
彼だけが唯一の生きている意味。

たったひとつの生きる意味が見つかったとき、まるで光が差したようにぼくらはものすごい強くなれるけれども
たったひとつの生きる意味が失われたとき、まるで暗闇が圧迫するようにぼくらは孤独でかきむしりたくなる感情でいっぱいになる。


もう終りだ。もう何もできない。生きていてもしょうがない。世の中が悪いんだ。
そう思ってしまっていたときがある。
何かを失うっていうのはそれくらい負のエネルギーを生む。
そうしないとじぶんを支えて生きていけないから。


生きる意味の選択肢はたくさんあったほうがいいと思う。
これも幸せ。これも幸せ。これも幸せ。
この人と一緒でも幸せ。この人と一緒でも幸せ。この人と一緒でも幸せ。
そうすれば、だれも恨みで生きて行かずに済むなあって。




葛城ミサト

そんな過去にしがみつく大人のなかでも、葛城ミサトは少し存在感がちがってくる。

彼女だけは、過去を抱えながらも、それでも未来に愛情を持っていく存在としてデカい。

っていうか、大好きだ



葛城ミサトはじぶんの父親にじぶんの命をかけて生かされた運命を持つ。


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あいつの父親はあいつをかばって死に あいつは生き残った

もちろんそのことはあいつの心と体に大きな傷跡として残った

あいつがネルフにはいったのもその事と少なからず関係があるんだろう

そのため、どこかで父親の仇という過去を乗り越えるために、エヴァの作戦に関わっているところがある。



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ミサトさんの夢って…願いって何なんですか?

人類の平和ですか?

人の命を踏みつけにして?

人の命の重さは同じなのに?

人類の平和か…

偽善ね…

今までガムシャラにやって来たけど その目的は建て前でしかなかった

あたしの本当の目的は…

お父さん…

あなたの仇を討ちたいだけなのかもしれない



それでも葛城ミサトという人間がほかの大人たちと明らかに違うことがある。
過去に深いトラウマを抱えながら、そして腐ったような現実を目の前にしながらでも、世界への愛情を持つことをやめないこと


パイロットたちを気づかい続けるし、
捨てられた動物は拾うし、

シンジが逃げ出しても追いかける。

そして巨乳。

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この子ネ 私が前働いてたトコで実験に使われててネ

用済みになって処分される寸前だったのをあたしがもらったの

こんな役にもたたない大食らいの鳥 なぜあたしが引き取ったかわかる?

かわいそうだったから… それもあるけど

でもあたしは ずっとひとりで暮らしていたし 仕事が終わって夜遅く疲れて帰った時

出迎えてくれる誰かが…

家族がいてくれればいいなって思ったのよ


惚れた。


漫画版のエヴァには、目立たなくてもこういうミサトさんの愛情みたいなものがずうーっと下のほうに流れてる感じがします。
彼女の存在は、母のいないシンジにとっては母性そのものだったんだろうと思う。


こういう無条件に愛してくれる存在って、葛藤するそばにはいつもあって欲しくて。


ぼくらは大きな安心感を得るわけっす。

そしてぼくらはこれを恋人とか、家族を新しくつくることで得ようとする。
恋愛するのもなんかそんな気がする。


ミサトさんに近いものだとジブリにもこういう存在はあるよねって思う。
『魔女の宅急便』のおソノさんとか。
『ハウルの動く城』のソフィーとか。




よく男性陣で話すことなのだけど、
なんだかんだで「お母さん」みたいな存在を恋愛に求める部分はあるよね、と。
どれだけ可愛い子と付き合っていても、それとは別にお母さんみたいな存在を求めてしまってるじぶんがいる。

じぶんがどれだけダメダメでやる気のないこと言っても、受け入れてくれるような存在。


そして、やさしさの中にもどこか厳しさがあって。
けど、その厳しさもこちらのことを思って、たとえ辛い言い方になっても厳しくする。
そういうことも必要


たとえば
シンジが希望ある未来を勝ち取るために、あえてシンジが闘うことを願うこのシーン


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どうせ死ぬなら 今死んだって同じだよ

そんなこと 私が許さない

だって あなたはまだ生きてるんだもの

私はあなたに
まだ希望を捨てて欲しくないのよ

誰のためでもなく あなた自身のためにエヴァに乗ってほしいの

人生は母性から旅立って母性を探しにいくところがある



27歳まで生きてきて思うのは、人生って母性との歩みなのだと思う。
ぼくらは大きくなるにつれて生まれてきた母性から離れ、
その優しさをときには嫌がりときには母に素直になれず。




けれども、気づけばまた次の母性のようなもんを探していることに気づく。

無条件の愛情。
じぶんが頑張ろうが頑張るまいが、すべて受け止めてくれる愛情。

こちらが相手をひっかいても優しく抱きとめてくれるような愛情。



シンジにとってそれは最初は母であり、それを失って次に見つけるのは葛城ミサトだった。

母性を出発点にしながら、ぼくらは守りたいものをじぶんで選び、背負い、また母性に帰る。




シンジが意識のなかで母と父に再会するシーンの言葉

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セカンド・インパクトの後に生きていくのか

この地獄に

いいえ

生きていこうと思えば どこだって天国になるわ

だって生きているんですもの
幸せになるチャンスはどこにでもあるわ

シンジ

いいのよ こちらに来ても 足が動かないの?

それともあなたが行きたいのは 私のところではなく
あなたの後ろに無限に広がる海の向こうなのかしら

あなたがどこに行こうと私はいつもあなたを見てるわ
自分の進む道はあなたが自分で決めるのよ


自分の過去に愛情へと戻るのか、まだ見えないし危ないことだってあるだろう無限の可能性ある愛情に飛び込むのか。
その選択は、大きくなればなるほど迫られる。
わかっている分、過去の愛情にしがみついたほうが、ずっと楽だ。





葛城ミサトがシンジに最後の命令を下すシーンにもこれに近い言葉はある。

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あなたが進む道は あなたがひとりであなた自身で決めなさい

あなたはもう子供じゃないわ

まわりの大人たちの言うことに振り回されて
甘えたり駄々をこねたり殻に閉じこもったりするのはもう終わりよ 卒業するの

怖がらないで もう一度自分の意志で一歩を踏み出しなさい

誰の力も借りずに答えを探しなさい

何のためにここに来たのか
何のためにエヴァに乗っていたのか
何のために今こうして ここにいるのか

そして答えを見つけられたら
必ず
戻ってくるのよ

約束よ


ぼくらは右も左もわからないとき答えが欲しくて。
だれか強い人を求めて、答えを教えてってしがみつく。
なんとなく、それにしがみついていれば振り落とされずにいられるから。
「答えを探せ」なんて、こっちは頼ってんのに、どうしてそんなこと言うんだよ、と何度も何度もしがみつこうとしてるのに、背中をおされて、ひどいなんて思って。


けど、それは愛情なんだと思うのです。

次の愛情を探させる愛情。






誰を守って、誰を愛していくのか君は選べるか


そういう愛情を受けながら、大人に囲まれながら、周りの友人や好きな人に囲まれながら




じぶんたちはどんな世界を最後に選んでいくのか。

成功している人間の足をひっぱるのか
みんな滅びろみたいに叫んでいくのか

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他人の手が 声が あなたをまた傷つけるわ


傷つけられてもいいと、それでもシンジは他人のいる世界を選び取っていく。じぶん自身の選択で。


生きていくなら、できるかぎり傷つくような世界はいやだ。
みんな最初から最後まで仲良しがいい。

そう考えてしまいがち。
他人なんて面倒くさい。

それでも、そういう他人というじぶんとは違う存在に何とも言えない幸福感をもらっているのも事実。
それは「違うのに、同じものを共有できた」という事実なのか幻想なのか分からないことによって、だ。
けれども、その幸福感だけは、まぎれもなく事実だ。


もしもこれが、じぶんと全く同じ存在で世界が溢れたなら、そこには何も感じあえない世界があるだけ。

それは、幸せなんだろうかってぼくは思う。


***

生きていればじぶんとは違う存在に傷つくだろう。傷つけられるだろう。
それでも過去に戻らず、過去にしがみつかず、未来を憂えず。

「生きていれば、何かいいことがきっとあるさ」
そうやって無限の可能性ときっとあるだろう愛すべき存在を信じて
現在をじぶんで選んで、強く進んでいく。


27歳のある男がエヴァンゲリオンを読むと、こう読む。


新世紀エヴァンゲリオン(1)<新世紀エヴァンゲリオン> (角川コミックス・エース)

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