彼女は就活生同士の恋愛に悩んでいた
就活生同士のカップルがいる。
疲れきったリクルートスーツ同士が、安いカフェでお茶をしながらふりかえりと愚痴こぼしをしている。
初々しくていいなあなんて、おじさんは思う。
お互いに前向きに頑張れているとき、ふたりでいることがどれだけ心強いかと思う。
ただ、
うまくいってないとき。
じぶんをどんどん追い詰めていく存在になったりする。
彼女の場合は、そうだった。
大学入学のころからずっと付き合っていて、そのままお互いに就活に入った知り合い女性がいた。
就活はじめの頃は、お互いに合説の情報を交換しあったりとか、どこの企業の説明会に行ってきたよとか、どこどこの会社は意外と面白そうだよとか、エントリーシート何書けばいいんだろうとか、そうやってお互いに就活を二人三脚で楽しみながら頑張っていた。
就活ってのは、始める前は世の中に怖いうわさがドロドロと流れているから怖いのだけど、いざ始めてみるとそれほど怖くないどころか、意外とじぶんが知らなかったことが分かってきたりして楽しかったりする。
ぼくも就活を経験したから、それはよく分かる。
問題は、選考が始まったときだ。
それまでは好奇心のカタマリで良かったのに、選考が始まればそれは一転、あなたは必要です必要じゃないですと親父にも殴られたことないのにレベルで問答無用で通知をよこされる。
「こんな会社で働けたら楽しそうだな」なんてそれまで限りなく広がっていった輝かしき未来が、ざっくりざっくりと削り取られていく恐怖。
彼女は不幸なことに、そういう輝かしき未来が、日が経つごとに削られることが多かった人で。
ぼくともう一人の女友達と3人でごはんに行ったときも、就活前に見せていたキラキラした目がどこか諦めみたいなものでいっぱいだった。
けどまあ、就活はなんとかなると思うんだけどね。ぶっちゃけ。
かたや働き始めた女友達が励ますと、そんな答えが返ってきて、どっちかと言うと悩んでるのはそういう話じゃないと言って
一番はさあ、彼氏くんとの関係なんだよね。
と言う。
聞けば、彼氏くんのほうがうまくいってる就活パターンで、ぼくは彼のことも知っていたから、まあそうだよね、優秀な彼のことだからそこらへんはまあそれくらいどんどん決めちゃってるよね、うんうんみたいな話の内容だった。
どうしてもうまくいっている彼氏が目にうつるようになるわけですよ。
なんとなくね、気まずくてね。
たまにご飯に行っても、意識せざるをえない。
そのうち、うまくいっている相手のことを心のどこかでうとましく思ってしまっているじぶんに嫌気がさして、距離をとるようになったそうで。
就活のことも連絡しなくなったし、それ以外の他愛のない話もしなくなってしまったんだと。
明るく笑い話にふるまおうとしていたけれど、理解者をじぶんから遠ざけざるをえなくなって、さらにこの先将来も不安で、どれだけ不安だろうと彼女に対して想像をめぐらせると、途方もない悲しみが湧いてきてやるせなくなる。
「そばにいる人とじぶん、比較しちゃダメだよ?」
と言ったのは、働いている女友だちだった。
それでなくても、働き始めたらもっともっと仲間と比較しちゃう環境に行くんだから、とさすが働き始めた彼女が言うことには説得力があった。
「そばにいる人と自分を比較し始めちゃうと、どんどん他人が嫌いになって一人ぼっちになるから」
じぶんはじぶん、他人は他人。
簡単なようで、これがまた難しい。
けど、ほんとその通りだ。
「他人と比較するんじゃなくて、昨日のじぶんとか、1ヶ月前のじぶんと比較するといいかもね」
とぼくも乗っかって言葉をかける。
大切なのは、どれだけじぶんが進んできたか、乗り越えてきたか、なのだと思う。
その道のりに人は感心し、評価し、力強さを感じるんじゃないかな。
そうして私は私なりに進んでいると思えれば、きっと他人をうとましく思わなくなるんじゃないかな。
「そっか。わたしが彼氏くんにそもそも敵うわけないしね」
「むしろあれだよ、どれだけじぶんが成長してきたか教えてもらえばいいじゃん」
「そうだよね」
どことなく、彼女はかけてもらった言葉ですっきりした顔になっていた。
そばにいる人は、じぶんの物差しじゃないんだよな。
うつむいたときこそ、思い出さないと。
そんなことを思い出しながら、ぼくも就活生同士の恋愛とかやってみたかったなあ、生まれ変わったらしたいなあと思っている。
人生をかっぽしよう
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