あの日僕は彼の文章を読んで志望大学を決めた
「え、現代文って売ってるんですか」
と家庭教師の教え子が言う。
「売ってるよ。金払って喜んで買うんだよ〜」
「衝撃です」
それはちょうど、宿題の現代文を読んでいたときのこと。
ぼくが好きな鷲田清一さんの文章が載っていて
「おっ」とぼくのほうが喜んで読み始める。
「この人の文章読んで阪大に行こうと思ったんだよなあ」
と懐かしむ。
現代文の面白さがやっとわかった浪人生のとき
鷲田清一さんの文章を読んで、衝撃を受けたあのとき。
自分の身体について、
身近な例を使って書かれたその文章が
今まで見えなかった暗闇部分が見えるような気にさせて
ワクワクをしたあのとき。
この人が総長をしている阪大に行きたい。
阪大に行って哲学を勉強したい。
そう思った。
けど結果的に、いろんな事情もあり
地元の東北大を志望することになった。
それでも、東北大学に行こうと思ったのは
野家啓一さんの哲学にも興味を持っていたから。
それも、現代文で彼の書く時間論の文章が
とても面白かったということが理由だった。
だから、法学部に入ったけど
文学部の野家さんの哲学の講義を聴きに行った。
もちろん、鷲田さんの本も
買いあさったり借りまくって読みまくった。
**
「勉強」のために出会ったものっていうのは
やらされている感がありがち。
なぜなら、そこには
答案用紙という避けられない目的があるから。
そうすると、答案用紙というパズルを完成させるため
どれもこれもパズルのピースだから
全部同じ味わいに思えてくる。
というかもはや味なんてない。
「『しかし』の後には大事なことが来るんだ」
とか教わるから、
「しかし」の後の内容が何だろうとあまり関係ない。
そしてその面白さに
学校を出て勉強という強迫観念がなくなったときに気づく。
けど、そもそも
「ここに面白いことが書いてあるんだよ」
と思って読めるようになると
内容理解もしやすいから、
一見すると遠回りに見えるかもしれないけど
結局は一番の学力になる。
家庭教師の教え子も
ぼくが鷲田さんの文章の面白さを語ったら
「現代文って面白いなあ」
と笑ってくれた。
そこに、意味を感じてくれたからだと思う。
そして
「たしかに、お金を払って読むほど貴重なものですよね」
と。
**
大学っていうのは
「ここに面白いことが書いてあるんだよ」
の先にあると思う。
ここに書いてあること面白いよね。
だからこれを書いている人面白いこと考えてるよね。
一緒に勉強してみたいよね。
一緒に勉強して、ここに書いていないこと以外を知ってみたいよね。
きっとそこに集まる人も、面白いよ。
だからもっと行ってみたいよね。
学ぶことって、お金を出してまで欲しがられるものなんだよ。
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