人生かっぽ

人生かっぽ —佐藤大地ブログ

哲学、言葉、人生観、仕事、恋愛、など人生をかっぽするような物語をつむぎます。宮城県 仙台市を主な活動拠点とする佐藤大地のブログです。2014年からEvernote公式アンバサダー。大学院では政治学を研究していました。

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私には私の順番が必ず来るから

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休日の朝8:30に散歩をしていたら、のどかな近所の光景に似合わない服装の若い男性が立っていた。
どっかの売れないバンドのベースあたりをやっている黒髪ボブに、体型は華奢で、細身のスーツに黒いシャツ、赤いネクタイをつけていた。

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え、夜の仕事の帰りだろうか、ここらへんに住んでるんだなあ、大変だなあと考えて横目で一瞥して、十字路ですれ違う。

あ、違うわ。
その日が成人式なんだと気付いたのは、ぼくがちょうど散歩のゴールのローソンに着こうとしていたときだった。

そして、ふふっと笑ってしまう。
彼は彼なりの個性の出し方なのだろうと。
バカにしたわけではない。どっちかって言うと共感に近い。
そういう気持ちは分かる。

ローソンで最近お気に入りのメガホットカフェを買って、こぼさないように歩きながら、さっきのベースボブの彼のことを、想う。

「大人になりました」と言えば聞こえはいいけれど、大人の境界線を超えた先に待つのは、だいたいは個性も何もない「脱個性の時間」だ。
学校にいれば、不良がいる。
不良ってのは個性だ。優等生がそのコミュニティの中で「プラス」の個性。そこは上位何%の限られた椅子。そこから漏れたら、じゃあどうやって個性を出せばいい?残念ながら、だいたいのコミュニティで限られた椅子からずり落ちた人間が個性を出すには不良という「マイナス」の個性を出していくのが一番まっとうなやりかただ。
不良になれば目立つ。おじさん知ってる。それがネットの世界になると「炎上」って言うんだよ。知ってる。
けど、そうしないと自分という存在が潰されてしまうんだったら、生き残っていく術としては、とてもまっとうなことだ。

まともな大人はぼくが十字路ですれ違ったベースボブの彼を「そんなかっこうして、はしたない」となじるかもしれない。
それでもそれが、彼が最後にとびっきりに背伸びした個性だ。

大人になれば、もう不良はいない。
いるのは、善良な市民か、犯罪者。けっこうそれは、おそろしい。

服装だってそうだ。
働く場所によってはスーツを着る。あるいはユニフォームを。あるいは作業着を。いわゆる制服を着る。
「統制」を取るための「服」が「制服」で、英語で言えば「uniform」。「uni(ひとつ)」に「form(収める)」ための服。
日本に制服の概念が来たのは1870年代。ちょうど欧米列強と戦うために明治維新を終えた日本が「日本国」という軍隊を意識づけるために着始めたのが由来。
ぼくらの外見はそうやって決められていく。
そんな中で自分の個性を出していかないといけない。
それを着崩したらどうなるのか?果てはクビ、つまり生活の基盤を失う。生存に関わる。
服装1つとってもそういう恐ろしい世界が待っている。

自分の個性は、粗々しく尖った個性は、そうやって社会にごりごり削られる。
あなたが星型でも丸くなれといい、丸くっても星型にとがれとせっついてくる。
いったい誰の言うことを聞いて自分の形をつくればいいのか分からなくなってくる。

でもさ、前に話したキャバクラのお姉ちゃんがこう言っていたんだよ。
「この仕事やり始めた最初は、できるだけ多くの人に気に入られて、指名もたくさんもらえて、できるだけたくさんの日に出勤しようって思ってた」って。
けど、「やめたんだよね。自分には自分の役割があるって。ほんわかした子にはその子なりの、話好きな子には話好きの、聞き上手な子には聞き上手な子なりの役割がある。私はその役割を待とうって思ったの。その順番は絶対に回ってくるって思うから」
そのお姉ちゃんは高校途中から行ってないんだってケラケラ笑ってた。今はいろんな人の話を聞くのが楽しい、ろくに勉強してないから人の話全部勉強になるから面白いってさ。
人生いろいろだよね。

ボブくん、その黒シャツ、たぶん君がこれから夜の仕事するか、友人の開くカクテルパーティーに着てくぐらいしか着るチャンスがなくなるかもしれないし、君のそのたなびく黒髪も、君の眉頭がはっきり見えるくらい切らないといけなくなるかもしれない。
けどさ、たぶん君のその「個性を少しでも出したい。おれはおれ」って見せ方はすっごく尊敬する。この年になると、自分含めて個性なんて言葉すら忘れて明日にしがみつく人だってたくさんいるから。
まあ、ただ、それは君の周りでも同じか。

散歩は気持ちがいい。20分歩けば人を幸せな気持ちにするホルモンが出まくるという。
この気持ちのまま、メガホットコーヒーを飲んで、ブログを書くのだ。

ベース黒ボブくんは、道中どんな気持ちで歩いていくのだろう。
おめでとう。成人。
大人は楽しいよ。

人生を、かっぽしよう。