人生かっぽ

人生かっぽ —佐藤大地ブログ

哲学、言葉、人生観、仕事、恋愛、など人生をかっぽするような物語をつむぎます。宮城県 仙台市を主な活動拠点とする佐藤大地のブログです。2014年からEvernote公式アンバサダー。大学院では政治学を研究していました。

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あの日僕は ナンパを焼き鳥屋で実行できることを知った

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「冬休みは?なんかあるんですか?」
「ないわぁ」

寒い。すっかり葉を枯れさせた木の下で身を縮めてタバコを吸っていると聞こえてくるのは、隣の二人組の男性たちの会話。大学生か。


「パーっと合コン行きたいっすわ。なんかないんすか?」
「ねえよ。あったらこんなさびしくねっつの」

いいよねぇ合コン。楽しいよねえ。
長期休暇になると合コンばかりだった頃を思い出す。

あっそれじゃあ、と大学生2人組のうち後輩らしきほうがひらめいたらしく
「ナンパとか良くないすか?」と提案。

「ああん?ナンパぁ?」
先輩は明らかに嫌がる。


いいじゃないか、ナンパ。そういうのも、楽しいもんだよ。

「おまえ、ナンパなんてこの寒い中でできっかよ」
「それな。それもそうっすね。どっか女子が集まりそうであったかいところでナンパしましょうよ」
「ケーキバイキングとか?できるわけねー」
「ケーキバイキングでナンパとか、めっちゃウケる」

そこでさびしき大学生の会話は終わった。
ふぃーっと最後の一息を出して、火をもみ消して、いなくなる。


バカめ。


何を言ってるのだ。


ナンパは室内でもできるのだ。



ぼくはあの日、奇跡を目の当たりにしたのだから。


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その日は、何がきっかけでそんなことになったのか分からない。
気づいたら突如として、なあ大地いまナンパしたくね?と言われる展開になっていた。


彼は合コンの魔術師だった。
ドラクエだったらひとりでゾーマを倒すレベルだった。あまりの能力の高さゆえ勇者から勇気を奪い取り隠居させるほどのレベルだった。


「え、まだ焼き鳥食べてたいんだけど」
ぼくらは焼き鳥屋にいた。

外は寒い。
だからナンパなんかせずに中にいたい。

すると、彼は違う違うと首を振り、ここでここで、と伝えてくる。

ぼくはもはやレベルが高すぎる魔導師の言っていることがよくわからなかった。



魔導師は少しキョロキョロしてから、メニュー表をとって、「なぁ、何食べる?どれ美味しいんだろうな」と言いだした。

いや、おれはまだこれ食べてるからいいよと断ると、彼は店員さんを呼び、注文をした。

これとこれとこれと、と注文した後に、これはどういうやつですか?と商品を確認して、店員さんの話にふぅんとちょくちょく反応してから、適宜気に入ったものがあると、じゃあそれで、と頼んでいく。


それからメニューから目を離して、それからとかなんとか言いながら、あれなんだろう、とぼくに話しかけているのか店員さんに話しかけているかわからない感じで言ってくる。
その指先をたどっていくと、隣の席の女性客3人のテーブルの上にあった焼き鳥を指差している。


すんません
と、魔導師が隣の席の3人に申し訳なさそうに話しかける。
「すんません、それ、何ですか?」
と。

セセリですとかなんとか女性たちが返事すると、ああ、ありがとうございます、と言って店員さんに「じゃ、同じやつください」と魔導師は注文した。

そして、店員がいなくなると、女性らに「すんません、ありがとうございます」と律儀に言う。
いいえーなんて言って、女性らはそれほど嫌そうではなかった。


ちなみに、と彼はまた彼女らに聞く。
そっちの皿のそれはなんですか?

ハツ?スナギモ?なんだっけこれ?えー分かんないよね。あははー忘れちゃったー。あ、なら大丈夫っす、はははーとかまるでミツバチと花のようなわっちゃかわっちゃかと話をした。



それからまたぼくとの2人の空間に戻ると、ぼくにだけ気づくよう小さく親指を立てた。


グッド。

オーケイ。



まさか。


まさかこれが。


ナンパだというのか…!


なんてやつだ、魔導師…



それでもまだ少し会話しただけだったので、第二波、第三派の仕掛けがあると思うので、ぼくは元通りに彼との会話をしつつも、気が気ではない。


注文した料理がやってきた。

そのとき、魔導師はまた店員を呼び止めて、すんません、ええと、あの皿のやつ、あれ。と指差した。
そう、彼女らの皿である。

ごめんなさい、なんだっけ、ハツだっけ?あ、分かんないんだっけ。(笑)

みたいなことを彼女らに話しかけて、すんません、 あの皿のやつ、何ですか?と聞く。
あ、スナギモですね。じゃあスナギモで。みたいなことを注文する。

店員さんがいなくなると、その話を使ってまたも女性らの席と盛り上がった。

スナギモ、だそうですよ(笑)
すいませぇん、ありがとうございます(笑)
なんちゃらかんちゃら。

あ、これ、あげますよ、教えてもらったので。良かったら食って下さい。

と言ってこちらの皿にあった焼き鳥を3本ほどあっちのテーブルにあげた。

ええ、いいんですか?いいんです、どうぞどうぞ、スナギモも教えてもらったんで。スナギモは教えてないですよ〜(爆笑)あ、そっかじゃあこっちが教えたんでこっちに何本かください、トレードトレード。ええー。
みたいな猫が毛づくろいをしあうような会話を楽しんでいる。


そのうち乾杯が始まった。


大学生?社会人ですか?
ああ、どうりで大人っぽいと思いました、違う違う、大人っぽいってことですよー、
仕事帰りですか?お疲れ様です。焼き鳥屋って珍しいですよね、女性3人で、ああ、よく来るんですね、あ、ここらへんオススメのカフェ知りません?最近調べてて、そうなんですよ、好きなんです、行くの、へえーそれってどこらへんですか?ふんふんなるほどなるほど……





魔導師…




すげえ…



気づくとぼくは村に取り残された主人公のお母さん状態だった。


パーティーの中には入れられてるけれどすっかり主人公ポケモンに出番を奪われてしまったその他の愉快な仲間たち状態だった。



魔導師にとっては、焼き鳥屋ですらダンジョンなのであった。



「ナンパはクラブかストリートか婚活パーティー」なんてのは、軟弱すぎて骨粗しょう症レベルの勇者の選択肢なのであると思い知らされたのである。


人生をかっぽしよう
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