僕はクリスマスにそばを食った
今年の冬は、宮城といえども雪が降らない。
ホワイトクリスマスではなかった。
それでも、今日は冬らしい風が吹いて身をちぢ込まらせながら、大崎市古川の駅に入る。
昼メシ、何にしようかな。
クリスマスなんだから、という考えが、なんだかんだで頭をよぎっている。
まったく、ハレの日ってのは、関係なく振る舞いたい人の手も否応なしに引っ張ってくるから困る。
「ほら、ほら、クリスマスだよ?」
やかましいわ。
それでも、やっぱり冬の風にいじめられた手や顔のせいで、駅の中の立ち食いそば屋の前に誘われる。
「クリスマス……これもオツだな」
メニュー表を見る。
「地方価格ってやつだよな」
仙台にチェーンを広げている店なら全体的にもう20円ほど安いのになあなんて思いながら、それでも「地方だしな」というよくわからない理由をつけて納得した。
「よし、ここは月見そば」
今年のクリスマスは満月も見られる数少ない機会だそうで。
ちょっとくらいじぶんに景気をつけるつもりで選ぶ。
「いらっしゃいませ」
中年の男女2人のそろった声に、心が少し弾む。
店はこじんまりしている。とくに飾り気もない。
立ち食いそば屋の待ち時間はスマホをいじる時間すらない。
せっかちな江戸っ子に愛されたのもよく分かる。
食券を渡すと、店の室温でぬくぬくとあったまるかあったまらないかというタイミングで
「月見そばのかたー」
と呼ばれる。
商品と交換する番号札はない。
誰が何を頼んだのか分かるのかな。
立派。
やっぱり卵があるかないかでは、なんかこう、誇らしさが違うよなぁ。
両手で包むようにして、焦らずゆっくり汁を流し込んだ。
やさしい。
麺をすする。
流行りのコシはない。
太くて、ほろっとほどけていく感じ。
コシがある方が好きだから、最初こそ物足りなかったけど、これはこれで、いい。
「これが私の良いところだよ!」
なんて主張してこないけど、それはそれでいい。
中盤に卵の黄身を割る。
なんでこう、卵の黄身を割る瞬間ってのはちょっとためらっちゃうんだろうなぁ。いつだって。
卵に絡めたそばが、丸みのある味で楽しい。
すする音も、変わる。
あとは、無心ですすっては飲み、すすっては飲みを繰り返し。
気づけばお昼時でサラリーマンがそこそこ入ってきていた。
「ごめんなさい、もうおにぎりないの」
「あ、んじゃおれ、いなりでいいわ」
みんな午後も頑張るんだろうな。
食べきり、満足感と一緒に「ふう」とひと息つく。
ホームに出ると、いつもはそれほどでもないのに、たくさんのひとがいた。
見れば、私服の高校生。
そっか、冬休みだもんな。
待合室では、「寒いね」と言って手をさすり合う高校生カップル。
下手っぴだけど一生懸命化粧した女子高生。
「何〜?デート〜?」と言ってからかい合う男女高校生
それぞれにワクワクドキドキしながら仙台へと向かう。
ハレの日は、ぐいぐいと手を引っ張ってくる。
ぼくは、ぼくのハレの日を。
あなたは、あなたのハレの日を。
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