別れられない人に、すぐ別れる人は、こう言う
「なんで別れないの?」
隣の席に向かってA子が言う。
B子は黙っている。
「さっさと別れなよ、何してんの?」
さらに念を押す。その声にはちょっと怒りすら見える。
B子はマグカップをぐるぐるぐるぐる回している。
It Was A Rainy Day / L.Cheryl
※この話は実話をもとにしたフィクションです。
そもそも話は
A子、B子、ぼくとがカフェに集まり
A子が最近また別れた
ということからスタートする。
「おまえ、また別れたのかよ」
ぼくはもはや、A子のこの手の話は
定期的な行事だと思い始めていたのです。
「だってさーなんかもうムカつくんだもん」
っていうセリフも、もう恒例行事です、はい。
だいたいキミ、自分に不都合なこと
全部「ムカつく」で済ますよね。
「なんかこーさードンピシャーみたいなさ
そういう人が良いんだよねー」
「そういうのは、最初からなんてあり得ないから」
「じゃあいつあり得んのー?」
「理想の関係は
“ある”ものじゃなくて“つくる”ものです!
みんなケンカしたり悩んだりして
つくりあげてんの!」
まったく、もうちょっと人間関係で我慢しなさい。
A子はいつもそんな調子。
しっくり来ないとすぐに別れる。
相手、頑張ってくれてるでしょそれ
って状態でも、あっさりスパッと別れる。
その切り捨て方たるや
お見事 とでも言いたくなる。
「ダメなものは、ダメ」
A子はそういう人。
そのA子の隣には
さっきからコーヒーカップを見つめながら
取っ手のところを親指でこすり続ける
B子が座っている。
A子の話を聞いているのか
聞いているフリなのか
少しだけ笑いながら
視線は外の雨を見ている。
「おい、おい」
ぼくはB子の視線の先を
コツンコツンと指で叩くと
やっとこちらに気づく。
やっぱり、聞いてなかったな。
「B子、彼氏とどうなのー?
長いよねーB子のとこー」
自分の話はすっぱり忘れたA子が言う。
Latte Art / PoYang_博仰
「もう1年半、くらいか?」
「そう、だね。それくらいかな」
「ながー!よく付き合えるねコツとかあんの?」
お前がなさすぎんだよA子。
ていうか声のボリューム下げろ。
B子、また、うまくいってないのかな。
何となく、受け答えで分かる。
全然楽しそうじゃない。
ぼくは以前から何回かB子が
恋人に対して深刻に悩んでいる場面を
見ていたのです。
A子は聞いていないと思うけれど。
けど
どうした? とはぼくは聞かない。
聞いたら、A子がうるさいから。
と思っていた矢先に
「実はうまく行ってなくて、最近」
とB子のほうから告白が飛んでくる。
「なになにどうしたの?」
明らかに心配していないA子が
隣の席に身を乗り出す。
なになに? なになに? と
それ以降あまり話そうとしない
B子にどんどん詰め寄る。
「A子はさ、どうして別れるの?」
とB子は逆に聞き返す。
一瞬面食らったA子が
そりゃ、と言うと
直感ですよ、と続けて笑う。
直感、直感、と。
「どうしたの?」
しょうがないからぼくが聞く
「最近ね、あまり時間があわなくて、お互いに」
あるよねーあるある。
とうるさい声を無視して
「そうなんだ」とぼくが言うと
「ちょっと別れようかなとも考えていて」
まるで
今日はそれが話したかった
とでも言うように
するっとその言葉が出る。
「そっか」ぼくはそれだけ言う。
んー、とB子がコーヒーカップを回し始めて
でもなーなんかなーと煮え切らない様子になる。
私のこと、一番に考えてくれるし
今は忙しいだけかもだし
私が支えないといけないのかもしれないし
いやーあたしが私が先にフラれるかもなー。
そんな感じが続く。
「なんで別れないの?」
その言葉がスパンッと耳に入ってくる。
それまではBGM程度のA子の言葉が、これだけは。
「さっさと別れなよ、何してんの?」
Memphis Belle flat white / WordRidden
B子はちょっと多めにまばたいて
いや、だってさ。
でもさ、なんかさ。
またコーヒーカップをぐるぐる回し始めて
弱音のように言葉を落とすしかできない。
さっきと似たような言葉を言い続ける。
「さっきから別れない理由を
必死で探してるみたいだよ。
なんかそれって変じゃない?
全然楽しそうじゃないんだけど」
やめろよ、とは言えない。
ぼくも薄々感じていたことだから。
B子はもう何も言わずに
カップをぐるぐる回し続ける。
「傷つけたらごめんだけどさ
結局、B子は自分が嫌われたくないから
そうやって言えないだけじゃない?
ふるくらいならフラれたいって言って
自分が傷つきたくないだけでしょ?」
ねえ? という同意を求めるそぶりで
A子がぼくのほうを見る。
A子からどこか真剣さが見えていました。
B子はぐるぐるぐるぐるコーヒーカップを回していました。
ぼくは、何も言えませんでした。
雨の音ばっかり
はっきり聞こえるようになっていました。
言いたいことを言う。
それは、誰のための思いやりなのか
分からなくなるときもあります。
結局、B子は
それからも、別れませんでした。
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