ブレすぎて決められなくなっちゃった
視野が開けすぎて、逆にブレて決められなくなっちゃった。
とくに新しい季節が始まって少し経つと、それは訪れる。
たとえば春。
新しい季節は新しい環境で新しい出会いをたくさん連れて来てくれる。
そして、そのなかには
じぶんが今まで考えてこなかったことを考えている人とか、
やってこなかったことをやってきた人とか、
そういう今までの価値観とかぶっ壊してくれる人たちとの出会いもある。
そうやってめまぐるしくいろんな人を見て、触れ、聞いていると
「じぶんの進路に悩み始めた」とか「この先の人生を考え始めた」とか、そういうことはよく聞くようになる。
普通の就活以外の道があったのか、とか、普通の進学以外の道があったのか、とか。
新しい世界がぐわーっと見えてくると、興奮と情熱で気持ちは高揚する。
問題は、その後だ。
新しいものが見えて、ふとその熱が一瞬冷めたり、ふと我に返ったある日の夜、
「じぶん、このまんまでいいのか?」
と、今度は逆に不安と今のじぶんに冷めたような感覚を持って、これから先のどこに進めばいいのかウツウツとした気持ちが吹き上がってくる。
興奮は、一気に不安のかたまりになる。
そうして、視野が広くなっていろんなことが見えた分だけ、前に進むのが怖くなる。
ぼくの場合は大学進学のときに一度はそれは訪れた。
それまでどこの大学でもいいや、ていうかどこの大学も同じように見えるんですけどっていう状態のときは、ただひたすらに目の前のテキストを予備校で解きまくる日々だったのだけど、魅力的な予備校の先生の話を聞いて、その内容を大学の法学部でできるんだよ、と教わってからは、経済学部でいいや、なんて思っていた内容はがらがらと足場が崩れ始めた。
経済学部を法学部に変え、それからさらに大学もこのまま東北大学でいいのか?と考え始めた。
もっとひどかったのは、働き方についてだった。
なんとなく面白いほうに、面白いほうに、と進んでいったら
じぶんで企画を持ち込み、会社の人と契約を交わしてそれでお金が入ってくるのだという働き方を知ったりとか、トークショーみたいなことをゲストをセッティングして行うことでお金になるんだとか、SNSを使って集客をすることでそれがお金になるなんてことを知った。
それまで「普通に就職して普通に働く」なんていう「サラリーマン」のような生き方がガラリガラリと崩れていって、じぶんで稼ぐということを考え始めた。
その分、迷った。
こっちの生き方もいい。
けど、あっちの生き方もいい。
ああ、そっちでもいいな。
これからどんな働き方をしていったらいいのだろう。
目の前に広がるたくさんの可能性の中からひとつの可能性を選ぶことができず、足がうんともすんとも前に進まなくなってしまった。
どの可能性も、素敵すぎて捨てられない。
もっともっと早く知っておくんだった。
どうしてもっと早くやっていなかったんだ。
そんな後悔を過去のじぶんに投げつけたっけ。
*
転機はふいに訪れる。
「何かを捨てるなんてことは考えなくていいでしょ。何かを今は選んで背負って進んで、戻ってこれるなら戻ってきて、またできるときにやればいいじゃん」
と頼りにしていた女性の先輩に言われたとき、気持ちがすっと楽になった。
そうしてそのひとはこうも言った。
「捨てなくていい。そこに置いておけばいい。しばらくの、お別れ」
「けどめぐり合う必要があるなら、きっとまためぐり合う」
そうか、そういう見方も、ある。
「捨てなくていい」
「置いておけばいい」
「必要なら、またきっとめぐり合う」
そうだ。もっと楽に。人生はぐるぐる巡っているんだろう。
*
新しい季節が始まった。
いろんな人に出会う。
いろんな情報が入ってくる。
いろんな知識が入ってくる。
そうして、いろんな可能性が見えてくる。
今まで30°しか見渡せなかった景色のなかで一番美しいと思っていた花があったとして、
けれどもある日突然、120°見渡せるようになったら、美しい花がもっとたくさん視界に入る分、
「じゃあこの中で一番美しい花はどれ?」
聞かれたら、見える分だけ困ってしまうんだろう。
決められなくなってしまうんだろう。
だって、良いものがたくさん見える分、間違ったものをじぶんが選んでしまう可能性も見えてくるから。
だったら、
もっと早く知っておきたかった。
どうしてもっと早くできなかったんだろうか。
そうやって過去のじぶんの視野の狭さに悩んでしまうけど、
けど、しょうがないんだよね。
天才科学者がタイムマシンでも発明してくれない限り、いまのところは過去に戻ってじぶんを責めることもできない。
毎日は進んでいく。新しい季節は進んでいく。
だったら、この先数年後のじぶんが、いまのじぶんに同じように嘆かないように、できる限り現在は、前に歩みを進める必要があるんだろう。
だいじょうぶ、季節はまためぐってくる。出会いもまためぐってくる。
だから少なくとも、現在の歩みだけは止めないように。
人生をかっぽしよう
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