ケンカなんて一度もしたことない二人が別れた
「ケンカしないんだよね、おれたち」
と言っていた二人が別れた。
おしどりカップルなんて呼ばれていた。
あんな風になれたらなと言われていた。
突然のことだった。
最後も、ケンカはしなかった。
けど、彼女は彼に思っていることを全て伝えた。
彼はそのときに、やっと気づいた。
うまくいってなかったんだ、と。
実際のところ二人の関係は
彼には、とてもうまくいっているように見えていて
彼女には、とてもうまく言っているように見えていなかった。
別れる半年前ほどから、別れる引き金になることを、彼女はすでに相談をし始めていた。
その内容は、相談相手をとても困らせるもので、
彼女の言葉をどう受け取ったらいいのかも、その言葉になんて返せば良いのかもわからなかった。
「ケンカ、できないの、いやなんだ」
彼女は悩みをそういう言葉で口にした。
「周りで付き合っている人同士がけんかしてる話とか、
相手のグチを言っているのを聞くと、いいなあって思う」
彼に特に嫌気がさすほどの不満があるわけじゃない。
けど、いつも自信の満ち溢れる彼の言葉に、自分の思うことを飲み込んでしまった。
最初は、そこが好きだったんだけど。
「言いたいこと言えばいいじゃん」
相談した人から、そう言われることもよくあったけれど、ダメだった。
言おうとする。
喉がふさがれたみたいになる。
このまま黙っていたらなんともなくなる、と思う。
そう思うと、何も言わずに笑っている方を選んでいた。
ずっと笑っている自分が、普通になっていた。
Blue jeans in a row / 305 Seahill
結婚
みたいなことを彼がさらりと言ったとき
彼女は不意に考えこんでしまった。
結婚
この状態が、ずっと続いていく。
私はずっと嘘をつき続けるかもしれない。
それは、不幸だ。
彼にとっても、私にとっても。
White object: shadows / kevin dooley
「ごめんなさい」
彼女は最後もそんな感じだった。
思っていたこと、考えたことをすべて話した。
どうして、もっと前に言ってくれなかったの。
ごめんね。
今からだって、ケンカすればいい。
ごめんね。
ごめんね。
「正直になれないんだ、どうしても」
彼女のその言葉が、彼にはケンカするよりもずっと辛かった。
ケンカしたほうが、殴り合いのケンカをするほうが、まだマシだった。
Xiao Long Bao / Charles Haynes
「ケンカをしない」
こう言うと、トラブルが無いようで、聞こえが良い。
ささくれだったものがないって素晴らしいように思えて。
けど、そう見えているのは外側だけだったりして。
どちらかが胸の中でくすぶった日をもみ消していることがある。
言いたいことを言う
っていうのは、ときにお互いにあちこち傷を作るかもしれない。
どうしようもない致命傷を生んで、それが別れを生んでしまうかもしれない。
けれど、お互いに時間をかけてゆっくり考えていけば
その傷がカサブタになって、もっと強い皮膚になっていく。
「ケンカしないんだよね」と笑うよりも
「ケンカばっかりで」と言っているのに笑っているほうが、強さを感じる。
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