自分をふった男に復讐して彼女が気づいたこと
「絶対に忘れられないようにしてやる」
と彼女は思った。
「ごめん、他に好きな子ができたんだ」
と彼は平然と言ってのけたから。
その子どんな子?
わたしのほうが考えてるよ?
もう一回考えなおさない?
泣きすがることもできた。
けど、彼女はそうはしなかった。
それはみっともないと思ったから。
「そっかしょうがいないね」
奥歯をなくなるほどぎりぎり噛み締めたい気持ちだった。
忘れられないようにしてやる。
それで「やっぱりお前が一番だよ」って気づかせてやる。
忘れられないようにしてやるにはどうしたらいいだろうか。
彼女はそこから考え始める。
近く、彼が誕生日になる。
誕生日おめでとうって伝えようか。
いや、そんなの意識しすぎてむしろ嫌がられる。
その好きな子とやらに送ってもらったほうが良いに決まってる。
おすすめのカフェの情報でも伝えようか。
いや、だから何って言われて終わりだな。
どうせお前とは行かないよって思われるのが関の山。
考えに考えた挙句彼女は思う。
「本当に必要な情報はありがたがるはず」
だから必死で考えた。
あの人、何が必要だと思ってたっけ。
それで、就活を間近に控えた彼が、コンサル系に進みたいと言っていたのを思い出す。
そこから彼がまだ手に入れていないだろうコンサル系の情報を調べて、それを彼に教えた。
「あのさ、こういう情報、知ってるかもしれないんだけど見つけたから良かったら」と送信。
しばらくして彼から返信が来る。
「え、こんなのどこで見つけたの!?ありがとう!」
ありがとう、と言われると復讐と言えどもやっぱり嬉しい。
「また何か見つけたら迷惑じゃなければ送る?」
迷惑じゃなければ、という言葉でちょっと引いたそぶりをする。
「助かる!」と彼。
復讐の突破口は開いた。
それからも定期的に情報を調査して彼に送る。
あまりどんどん送ると彼が引くから、いい感じの日程を開けて、ありがたみを感じるペースで送る。
少しずつ、少しずつ毒を盛って死に至らしめるみたいに。
彼は毎度毎度だいぶ喜んでいた。
少しずつ、就職情報以外の情報も伝える。
「あそこのラーメン屋好きだったよね?今度安くなるらしいよ」
「映画のチケットただでもらって行かないからあげる」
……
Red Wine Glass #dailyshoot / Leshaines123
「今度、採用担当者から話聞ける機会あるらしいんだけど、そこ調べてた?」
復讐し始めてから数ヶ月が経っていたころ、もはや彼から彼女に連絡が来るようになっていて。
そうやって必要とされたら、すっぱりと目の前からいなくなってやるんだ。
彼女には復讐のラストがはっきりと意識できていた。
「おれ、コンサル辞めようかな」
彼が彼女のいつもの連絡に対して唐突に返信してきた。
「どうしたの、うまくいかないの?」
彼女がそう返したのは、自然だった。
「うん……」
「けどあれだけ行きたいって言ってたでしょ」
「そうなんだけどさ」
彼は、相当悩んでいた。
気づけば、夜早い時間に始まったやりとりが、日をまたぐような時間になり
「今、会えるの?」
彼女はそう返信して
「うん」
という彼の返信を見ると近くのファミレスを指定して
寝間着にカーディガンだけ羽織る形で家を飛び出す。
そこから深夜までずっと話していた。
思い悩んでいた彼の気持ちをとにかく吐き出させて、それを受け止めて。
やっとのことで、彼の気持ちがおさまってまたやる気になっていく姿があった。
20071023_030336_R0020687 / くーさん
「じゃあね」
気づけば午前3時になろうとしていた。
そう言えばと思う。
そう言えば、付き合っている時にもこんなに話し込んでいたことなかったな。
そう言えば、こんなに彼が何が必要か必死になるくらい考えたことなかったな。
そう言えば、こんなに彼のことを考えた毎日もなかったな。
なんでこれ、もっと前からやらなかったんだろう。
なんで別れる前に、気づいてやれなかったんだろう。
復讐してたはずなのに、一番好きになっていたと気づいて、泣いた。
もう一回好きになっちゃダメかな、とそこで思う。
彼の就活が落ち着いて、彼女がもう一度彼と付き合うことになるのは、もうちょっと先の話。
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