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人生かっぽ —佐藤大地ブログ

哲学、言葉、人生観、仕事、恋愛、など人生をかっぽするような物語をつむぎます。宮城県 仙台市を主な活動拠点とする佐藤大地のブログです。2014年からEvernote公式アンバサダー。大学院では政治学を研究していました。

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ラブホテルってどうしてこんなにも「性の葛藤」を考えるのだろうか【ホテルローヤル】

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すべてはひとつのラブホテルを中心に始まる。


ラブホテルって、その部屋にどうしてそこにいた人たちを感じてしまうんだろう。
それから、どうしてそのひとたちの性の関係やら葛藤を考えてしまうんだろう。

この一冊はそんな話。


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おもしろかった。

直木賞受賞作。
『ホテルローヤル』

ホテルローヤル (集英社文庫)

ホテルローヤル (集英社文庫)



この前、『火花』を読んでめっちゃ面白かったので、
そのままの勢いで以前の直木賞で読んでいなかったものを購入。

だから本っていやだ。
一冊と読むと止まらなくなるんだもん。
どんどん買ってしまう。


ホテルローヤル

物語はホテルローヤルが廃墟になったところに
あるカップルがヌード写真を撮りに行くところから始まる。



ラブホテルは性の関係から人の関係を考えてしまう場所

Strawberries
Strawberries / Sharon Mollerus


ラブホテルっていうのは、どうしてこう
いろんな人の関係を感じ取って考えてしまうのだろうと思う。

たしかに不思議な場所で。
ぼくも何度か行ったことがあるのだけど。


部屋はしっかりキレイに掃除されてはいる。
けど、そういう行為をする場所なわけだから、
ぼくが来る前にはそこでだれかがしているはずで。
その二人には関係があるわけで。
しかもぜんぶがぜんぶ恋人同士、夫婦同士じゃないわけで。
しかもわざわざラブホテルに来るわけで。

単純にエロい気持ちがどうとかじゃなくて
その行為の向こう側にある、人それぞれの関係というものを、
そういうものが話で聞くなんかよりもずっとずっと想像力激しく思い描かれてしまう。



この小説の作者の話を以前聞いたことがあるけど
作者もおなじことを思って筆をとったそうだ。


性の関係って一番正直だと思うし、一番関係が見えると思うし
そのための場所であるラブホテルって、それがいっぱい詰まったところなわけで。


人の性への想いの交差が見える小説

Strawberry
Strawberry / ^riza^


そういう人の関係が性行為やホテルを通して見えてくるのがこの小説で。

この作品では、どちらかというと、女性の気持ちが描かれている。


たとえば、こんな女性が描かれている。


「夢」にしがみつく男にしがみつき、
性行為することでどこかそこにズルズル引きずられる女性。

じぶんの大切なひとと、それからその人が守る寺を守り抜くために
献身的に檀家と性行為をして、けれどもどこかで感じる欲に葛藤する女性。

舅(しゅうと)が同居するためにろくに性行為できない中で、
ちょっとの贅沢と、夫とのつながりを求めて姑のお布施代を使って夫とラブホテルに行く女性。

なし崩し的に継いだラブホテルの経営最後の日、
「えっち屋さん」という性玩具を扱う業者の男性と最後の部屋で思い出作りに関係を持つ女性。


そういう女性たちが、性行為を通して喜怒哀楽だけではおさまらない、いろんな感情を抱いていく。



そして何よりも、
ホテルローヤルを通して、この物語の登場人物が時間と場面をこえて交差しあっていく姿がおもしろい。

ちょうど、短編のなかの登場人物が他の編でも関わり合うという意味で同じなのは
伊坂幸太郎『終末のフール』とか、有川浩の『阪急電車』とか
ぼくは好きですね。


先にも書いたんですが、
ラブホテルって、ふつうのホテルと違って、
前にここにいたひとのこととか、その関係性とかちょっと考えやすい。
だから、そういう点で
この人間たちの交差が
どこか奇妙で、どこか必然で、どこか意識しあって、
おもしろい。


そして、この物語は、ホテルローヤルの創設者である田中大吉の想いがずっと横たわっている感じがするのです。

妻に逃げられ、身ごもった愛人と一緒になって人生をかけて始めた仕事。
妻の親にはバカにされ、
息子には冷たい視線で見られた、
そういう鬱屈(うっくつ)とした気持ちを
かき分けるようにして始めた仕事。

そういう空回りしているような大吉の想いが、
ホテルに関わる人の気持ちと重なることもある。

大吉のかきむしるようなホテルへの想いと
そのホテルに関わっていく人たちの気持ちの絡みが、
なんとなくうっすらと、けど読み進めるほどに強くなっていく。

そのことも、この物語から感じられる「人の想いが交差する感じ」なんだと、思うのです。

田中大吉の物語は最後にあって
そして、物語はその大吉が建てたホテルローヤルが廃業した後から、始まる。
だから、読み終わると、もう一度最初から読みたくなります。



きっとこの物語のなかに性の行為に葛藤する自分がいる

Strawberries Panorama
Strawberries Panorama / David Blackwell.


いろんな相談を聞いたり、性の話をしていると、
男性は行為できるかどうかということで臆病になるんですが
女性は行為すること自体について葛藤するイメージがあるんですね。


したくてすることもあるのに、したらしたで、複雑な気持ちを抱える。


ともすると、官能小説になりがちなこの手の作品が、
女性のなかにあるそういった葛藤と、
そして相手との関係に葛藤する姿に
どこかじぶんを探してしまうだろうと思うのは、
そこらへんの気持ちが丁寧に描かれているからだと思います。


ラブホテルという場所を通したこころの葛藤を。


ぜひ、ご一読ください。

『ホテルローヤル』

ホテルローヤル (集英社文庫)

ホテルローヤル (集英社文庫)


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