「やりたいことをやりたいようにやろう」と考えるから、人生は苦しくなる。
「やりたいことをやりたいようにやろう」
そんな言葉が、
はためくようにぼくらの前を通過して
ぼくらを喜ばせているけれども
同時にそれがぼくらを
「選べない人間」にして
苦しめているのだと思います。
昔ぼくは、自由度が大きなものを
欲しがるタイプでした。
バッグはデカいのがいいし、
部屋も広いほうがいいし
アニキのお下がりが嫌いだったし
作文を書くときはテーマを与えられるのが嫌いだったし
自分の仕事を指示されるのが嫌いだったし
自分の将来を指図されるのが嫌いだったし。
いま少しずつ少しずつ
何か小さいこだわりを選ぶ分、
他は全くの不自由極まりなさを選ぶことを
楽しむようになりました。
たとえば
小さいサイフを買う。
すると
お札は持ち歩きづらくなるし
カードは少ししか入らない。
MacBook Airを買う。
すると
DVDやCD見れない。
もちろん、それで手に入れた価値もあるけれど、
できなくなることが気になってしょうがない。
最初は制限される自由がキツイ。
けど、それが心地よくなってきたんです。
やっと。
自由が、つらい
「可能性の広がるぼく」は
いつしかぼくを苦しめます。
一昔前はよくわかんないうちに
その地域や家で決められていた自分のことを
いまは自分で選び、決める。
どんな宗教を選ぶのか
どんな服を着るのか
どんな教育を受けるのか
どんな結婚相手を選ぶのか。
ぼくらは、この時代で、
生まれた瞬間に
権利というプレゼントが与えられる。
そのプレゼントは例えば、
自分が暴力を理不尽に受けない権利、
自分が何を信じていくのか許された権利、
自分が何を言うことをある程度許された権利、
教えてもらえる権利、
自分たちのことを決めてもらえる権利、
誰を好きになって誰と生涯寄り添っていくかを選ぶ権利。
そういう権利という自由を与えられる。
権利は
「ぼくは〜することができる」
を増やす。
相対(=人によって違う)主義(=考え方)
とでも言える考え方について
チャールズ・テイラーおじさんは
こんな風に言います。
人は誰しも、自分がほんとうに重要だと思うこと、ほんとうに価値があると思うことにもとづいて、自分なりの生のあり方を発展させてゆく権利をもっている。自分自身に忠実であれ。自分にしかなれないものになれ。しかも、何をもって自分自身とするか、自分にしかなれないものとするかは、最終的にはひとりひとりが、彼ないし彼女自身で決めなければならない。彼ないし彼女以外のなんぴとも、その中身について指図することはできないし、またすべきでもないのだ
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と。
そう、誰もぼくの可能性について口出しできない。
ぼくには、
無限の可能性が広がっていく。
同時に自分に広がる可能性を
捨てたくなくて
選ばなくなる。
選びづらくなる。
人生を前に進めるのが怖くなる。
何かを選ぶことで、
何かの可能性は捨て去られる。
どこかの大学に行けば、
それ以外の大学には行けない。
どこかの就職先を選べば
それ以外の就職先を選べない。
誰か恋人を選んだら
それ以外の恋人を選べない。
まだひと削りもしていない
ツルツルきれいな表面を持った
ひとかたまりの氷みたいな、ぼく。
そのぼくがキレイすぎて
氷像をつくるために削るのが怖くなる。
自分の可能性を喜んで削る
人生を前に進める。
つまり
自分がどんな人間になるかを選んでいく
ということは、
何か一つの可能性を選んでいくこと。
同時に
自分に広がる可能性を削いで行くこと。
そして
一つ選ぶことで出てくる、
不自由を受け入れること。
可能性の広がるツルツルした氷の表面を
少しずつ少しずつ削って
自分なりの形を浮き上がらせていくこと。
どこかの大学に行けば、
それ以外の大学には行けない。
どこかの就職先を選べば
それ以外の就職先を選べない。
誰か恋人を選んだら
それ以外の恋人を選べない。
そうして選ぶことでぼくはつくられていく。
「やりたいことをやりたいようにやろう」
「それ以外はやりたくない」
それは結果的に
何もしない
という結論になってしまいがち。
ぼくらは選ばなければいけない。
強制するかもしれない。
けどそうして、初めて自由は見えてくる。
生き方が見えてくる。
ぼくという輪郭が見えてくる。
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